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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)559号 判決 1963年1月31日

控訴人 国

訴訟代理人 山田二郎 外一名

附帯被控訴人 株式会社長崎製作所

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

被控訴人は、昭和三〇年六月一三日、被控訴人が訴外谷崎製作所こと谷崎栄一から、原判決添付物件表記載の物件を、金四〇万円の債務の代物弁済として受領し、その所有権を取得した旨主張するが、甲第七号証の一、三、五、一二、乙第一五号証中の「谷崎家賃一二〇、〇〇〇円」なる記載及び原審証人谷崎栄一(第一回)、同谷崎栄子、同渡辺敦治、同土井朝一の各証言中右主張に副う部分は、官署作成部分の成立に争いがなくその余の部分も原審証人渡辺敬治、同谷崎栄一(第一回)の証言により成立を認め得る甲第一号証、成立に争いのない乙第一五、第一六号証によつて認められる以下の事実に照らすと、直ちに被控訴人主張事実を肯認する証拠となし難く、他にこれを認むべき確証がない。

一、甲第一号証には、谷崎が被控訴人に対してではなく清水重春個人に対し、金四〇万円の債務の代物弁済として谷崎所有物件を譲渡する旨記載されているのみならず、代物弁済に供すると称する物件は、本件係争の八尺旋盤一台、六尺旋盤三台の外に、なお大阪市東成区南中浜町上の木造瓦葺平屋工場(建坪一一坪七合三勺)、右工場内備付の四尺旋盤、フライス盤、ボール盤(ギヤー式)、ボール盤(高速度)、ボール盤(小型ベルト掛)、ハシラポンス(中型)、三馬力モートル(明電舎)、二馬力モートル各一台、以上設備に附属する伝導設備一切並びに工具類一切を包含し、右物件の総価格が何程であるかは明らかではないけれども、被控訴人は右物件中係争の旋盤四台のみでも時価合計八〇万円であると主張し、原審は八尺旋盤一台の本件強制執行当時の時価は金一七万円、六尺施盤一台のそれは金一四万円であると認定し、そのいずれであるとしても、係争旋盤の時価のみでも債務額を超過し、それ以外の前記工場及び機械工具等も相当の価格を有するものと認むべきであるから、債務額と代物弁済に供したと称する物件の価格とが著しく均衡を失し、特別の事情の認め得ない本件(原審証人谷崎栄一が証言(第一回)するが如き事由は特別の事情とは認め難い)においては、被控訴人主張のような代物弁済契約をなしたものとは首肯し難い。

二、被控訴人の第九期決算書(昭和三〇年一二月一日ないし昭和三一年一一月三〇日)に前期の期末、当期の期首及び期末を通じ、被控訴人が谷崎に対し長期貸付金四〇〇、〇〇〇円を有する旨記載されている事実。

三、前記決算書の勘定科目説明書中建物ないし機械の項目に、被控訴人が谷崎から代物弁済として所有権を取得したと称する物件の記載がない事実(すくなくとも工場、八尺施盤及びハシラポンスの記載がないことは明白であるから、その勉の物件も記載されていないものと推認すべきである。)。

四、右決算書雑収入欄(この中に「谷崎家賃一二〇、〇〇〇円」なる記載がある)の総金額を合計すると、同欄表示の合計金額と一致しないことが計算上明らかであり、また右合計額を記載した書体が他の部分の書体と異り、この合計額は右決算書損益計算書の収入之部にも雑収入として掲げられ、後日その金額をたやすく動かし難いものである事実。

五、被控訴人の第一〇期決算書(昭和三一年一二月一日ないし昭和三二年一一月三〇日)に、被控訴人が期末において、谷崎に対し貸付金四四〇、〇〇〇円を有する旨記載されている事実。

六、右決算書勘定科目明細書中の建物及び機械の項目の記載と、前期決算書の記載を比較して、建物及び機械に減少のない事実。

七、右一〇期決算書中雑収入欄中に、谷崎家賃なる記載が全然ない事実。

そして、本件の強制執行当時、被控訴人が前記物件表の内その主張の旋盤四台を所有していたことを認めるに足る証拠はないから、その当時右所有権が被控訴人にあつたことを前提とし、前記強制執行によりその所有権を喪失したことを原因とする被控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、全部失当として棄却すべきものであるのに、一部を認容した原判決は、その限度で不当であるから取消を免れない。そして、被控訴人の附帯控訴の理由のないことも明らかであるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩口守夫 藤原啓一郎 岡部重信)

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